歌謡曲ファンを標榜しておいて恥ずかしいけど、ちあきなおみのCDを買うのはこれがまだ2度目。唯一持ってるのは筒美京平作品目当てで買った『かげろふ〜色は匂へど〜』(1990)で、その芳醇な歌声とジャケットのシルエットが描く胸の稜線に驚嘆したものでした。その後はコロムビア時代のベストに納得いくのがなくて、BOX『これくしょん〜ねぇあんた〜』を買おうとしつつも、初回仕様セットがなくなってしまって結局買いあぐねているという状況でした。
世代的にテレビでの記憶は今ひとつないんだけど、強烈な印象となった個人的ちあきなおみ体験について。もはや伝説化されつつある77年紅白での「夜へ急ぐ人」パフォーマンス。ちあきなおみの狂気は受け止めつつも、同じ大人の世界でもジュリーなら分かるけどこの曲の良さは自分には理解出来ない……と深い諦めを感じた。だから山川静夫アナごときが生放送中に大勢の国民の前でこの曲をいとも簡単に切り捨てたことが余計ショックだった。AMラジオで偶然聴いた「矢切の渡し」は、耳馴染んでた細川たかしバージョンのノーテンキさとは全く別物でショックを受けた。そしてタンスにゴンで復活した頃、『夜も一生けんめい』で歌ってくれた「ビーバップ・ア・ルーラ」。腰をグラインドさせ、ロングドレスを翻し歌うカッコ良さに認識を新たにしたのでした。
こんな風に、常に気になる歌手だったちあきなおみ。今回コロムビア時代を一通り聴いてみたけど、「ロック画報」12号で石井恒さんが述べられているちあきなおみ論には多いに共感出来ます。どっちが上手いかは判断しかねるけど、艶っぽい妖気とか麗しく湿れた声とか、ちあきなおみにあって美空ひばりにないものがあることは確か。そして石井さんの書かれてる通り、やはり彼女は「夜を急ぐ人」を最後に大衆に、ある諦めを感じてしまったのだろうか……。
デビュー曲「雨に濡れた慕情」からして、そのクールな佇まいに後年アシッドジャズ歌謡と再評価された傑作。右チャンネルから聴こえるピアノと左のギターのコール&レスポンスがたまんないです。2ndシングル「朝がくるまえに」は曲構成といいサウンドといい基本的にデビュー曲と同じ曲ですね。「モア・モア・ラヴ」はローテーション外で発売されたタイアップソング。16ビートが顕著になって、やはりサビでは脊髄に響くようなベースが聴ける。メロディーの一部フレーズがジャガーズ「星空の二人」に似てる。次の大ヒット「四つのお願い」と「X+Y=LOVE」は彼女の曲では貴重な長調の明快な歌謡ポップス。
その後煮詰まり気味の鈴木淳を離れてからは、彩木雅夫の書いた「今日で終って」「恋した女」が彼女のジャズセンスに歩み寄っていて面白い。が、従来のヒット曲のイメージをなぞるものでしかない女性像を突き破る転機となるのは、作詞に再び吉田旺を迎えてから。「喝采」はやはり最高傑作ですね。劇的な歌詞を突き放して歌うちあきなおみの厳かさ、それを包み込むマンドリンのトレモロやフェンダーローズの温かい音色。中村泰士先生に関しては「喝采」以外の曲に、サビのメロディーが急ごしらえで取って付けたようなのが多いと思ふ……。まあ「夜間飛行」は、クールファイブの「さようならの彼方へ」と並ぶ“フライト歌謡”の名作だけど、歌詞や仕掛けの方が勝ってます。
ゴスペル歌謡の「かなしみ模様」も、唱歌みたいで心安らぐ「花吹雪」も大好きです。「花吹雪」は、学生と水商売の年上女との物語なんだろか、吉田作品にはドラマがあるなあ。しかしこれらもヒットには至らず演歌にシフトチェンジするわけですね。その後77年に入ると、中島みゆき、友川かずき、河島英五とフォーク系歌手の作品を続けてリリース。この中で「夜へ急ぐ人」の特異性については、もう聴いていただくしかない……。いい大人になった今でも充分に理解は出来ないけど、やっぱり笑って済ましたりは出来ないな。
DISC 1<1969〜1973>
01. 雨に濡れた慕情(作詞:吉田央/作曲:鈴木淳/編曲:森岡賢一郎)
02. 朝がくるまえに(作詞:吉田央/作曲:鈴木淳/編曲:森岡賢一郎)
03. モア・モア・ラヴ(作詞:吉田央/作曲:鈴木淳/編曲:森岡賢一郎)
04. 四つのお願い(作詞:白鳥朝詠/作曲:鈴木淳/編曲:小谷充)
05. X+Y=LOVE(作詞:白鳥朝詠/作曲:鈴木淳/編曲:森岡賢一郎)
06. 別れたあとで(作詞:白鳥朝詠/作曲:鈴木淳/編曲:森岡賢一郎)
07. 無駄な抵抗やめましょう
(作詞:なかにし礼/作曲:鈴木淳/編曲:小谷充)
08. 私という女(作詞:なかにし礼/作曲:鈴木淳/編曲:小谷充)
09. しのび逢う恋(作詞:白鳥朝詠/作曲:浜口庫之助/編曲:小杉仁三)
10. 今日で終って(作詞:阿久悠/作曲:彩木雅夫/編曲:小杉仁三)
11. 恋した女(作詞:阿久悠/作曲:彩木雅夫/編曲:小杉仁三)
12. 禁じられた恋の島(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:馬飼野俊一)
13. 喝采(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
14. 劇場(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
15. 夜は誰にもあげないで(作詞:吉田央/作曲:鈴木淳/編曲:川口真)
16. 想い出なんて欲しくない
(作詞:悠木圭子/作曲:鈴木淳/編曲:小谷充)
17. 変身(作詞:白鳥朝詠/作曲:鈴木淳/編曲:船木謙一)
18. 私はもう一度(作詞:なかにし礼/作曲:鈴木淳/編曲:船木謙一)
19. たそがれの海辺
(作詞:白鳥朝詠/作曲:浜口庫之助/編曲:小杉仁三)
20. もう忘れましょう(作詞:阿久悠/作曲:彩木雅夫/編曲:小杉仁三)
21. マニキュアがかわくまで
(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:馬飼野俊一)
22. 最后の電話(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
23. くせ(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
DISC 2<1973〜1978>
01. 夜間飛行(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
02. あいつと私(作詞:千家和也/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
03. 円舞曲(作詞:阿久悠/作曲:川口真/編曲:川口真)
04. かなしみ模様(作詞:阿久悠/作曲:川口真/編曲:川口真)
05. 花吹雪(作詞:吉田旺/作曲:都倉俊一/編曲:都倉俊一)
06. 恋慕夜曲(作詞:吉田旺/作曲:浜圭介/編曲:馬飼野俊一)
07. さだめ川(作詞:石本美由起/作曲:船村徹/編曲:船村徹)
08. 恋挽歌(作詞:吉田旺/作曲:浜圭介/編曲:馬飼野俊一)
09. 女どうし(作詞:吉岡治/作曲:川口真/編曲:竜崎孝路)
10. 酒場川(作詞:石本美由起/作曲:船村徹/編曲:船村徹)
11. ルージュ(作詞:中島みゆき/作曲:中島みゆき/編曲:チト河内)
12. 夜へ急ぐ人(作詞:友川かずき/作曲:友川かずき/編曲:宮川ヒロシ)
13. あまぐも(作詞:河島英五/作曲:河島英五/編曲:ミッキー吉野)
14. 矢切の渡し(作詞:石本美由起/作曲:船村徹/編曲:船村徹)
15. 二年前の秋(作詞:吉田旺/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
16. 雨の日にきた別離(作詞:千家和也/作曲:中村泰士/編曲:高田弘)
17. 女の旅(作詞:阿久悠/作曲:川口真/編曲:川口真)
18. しゃれた生活(作詞:阿久悠/作曲:川口真/編曲:川口真)
19. 真夜中(作詞:吉田旺/作曲:都倉俊一/編曲:都倉俊一)
20. 誘い水(作詞:吉田旺/作曲:浜圭介/編曲:馬飼野俊一)
21. 口紅えれじい(作詞:吉田旺/作曲:浜圭介/編曲:馬飼野俊一)
22. 雨の日ぐらし(作詞:吉岡治/作曲:川口真/編曲:高田弘)